企業向け金融支援策の副作用

コロナ禍の資金繰り危機を乗り越えても、負債増加が将来の設備投資を抑制する可能性

  • 政府・日本銀行が打ち出した企業向けの金融支援策は一定の効果を挙げていると評価できよう
  • 一方、負債増加により設備投資が抑制される可能性があるため、その副作用にも注意しておく必要があるだろう
  • 仮に負債が設備投資の重石となっている状況が問題視された場合に考えられる方策とは

コロナ禍で企業向け資金繰り支援策は未曽有の規模へ

コロナ禍による急速な景気の落ち込みを受け、政府・日本銀行は企業向けの金融支援策を打ち出した。融資を実質無利子で行う仕組みもあり、5月以降、金融機関による貸出が急速に増加している。企業の景況感は大きく悪化したものの、資金繰りの深刻な悪化は回避でき、企業倒産件数もこれまでのところ低水準で推移している。コロナ禍のこうした大規模な金融支援策は、一定の効果を挙げていると評価できよう。

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未曽有の大規模企業支援策の副作用

企業の資金繰り支援策はまだ当面継続すると見られるが、その副作用にも注意しておく必要はあるだろう。企業が多額の負債を抱えていれば、営業余剰をその返済に充てる必要が生じるため、企業は設備投資などを抑制する可能性が考えられる。

実際に、借入総資産比率、期待成長率、実質金利を説明変数として設備投資関数を簡単に推計すると、中小企業では借入総資産比率が上昇すると設備投資が大企業以上に抑制される傾向が見受けられる。

中小企業、対面サービス業の生産性向上が妨げられる可能性

生産性への影響の観点からも考えてみたい。日本では中小企業の生産性向上の必要性が長らく指摘され続けてきたが、コロナ禍を経て、生産性向上のために必要な投資に二の足を踏んでしまう可能性が考えられる。また、労働生産性が低い対面サービス業に対する貸出も増加しており、今後の設備投資が抑制される可能性にも注意したい。

産業別、労働生産性と金融機関の貸出残高

コロナ禍後の債務問題解決と生産性向上の筋道

負債の増加が企業の設備投資を抑制し、生産性向上が妨げられる可能性があるからといって、黒田総裁が述べたように、資金繰り支援策を絞るのはまだ先であろう。性急に支援策を絞ることで景気が底割れし、景気低迷が長引けば企業の期待成長率も悪化し、設備投資にとって悪影響が及ぶ事態となれば元も子もない。

仮に負債が設備投資の重石となっている状況が問題視された場合、(1)キャッシュフローを増加させ返済しやすくする、(2)低金利あるいは無利子の融資政策を長期間継続し、景気の正常化を待って徐々に返済を進めさせる、(3)設備投資を税優遇で後押しする、(4)公的資金により企業の債務負担を軽減する、(5)企業再編を進める、といった政策が考えられる。

日本:企業向け金融支援策の副作用 2020/10/14 より

著者

    棚橋 研悟

    棚橋 研悟

    野村證券 エコノミスト

    桑原 真樹

    桑原 真樹

    野村證券 シニアエコノミスト

    美和 卓

    美和 卓

    野村證券 シニアエコノミスト