バイデン氏の経済政策がアジアに及ぼす影響

  • 全体的に、通商政策の不確実性が後退し、米国のインフラやクリーンエネルギーへの支出増加によるプラスの波及効果があるため、バイデン氏の経済政策の効果はアジアにとって短期的にプラスとなるはずである。
  • しかし、バイデン前副大統領が掲げる「バイ・アメリカン(米国製品優先購入)」政策や国外アウトソーシングのインセンティブを削ぐ税制、ならびに幅広い分野における中国との対立は、中期的な課題が残っていることを示唆している。
  • 短期的には、東南アジア諸国連合(ASEAN)よりも北アジアが恩恵を受けると考えられるが、中期的には北アジアは課題に直面する可能性が高い。

Following the recent US elections, we explore the likely impact of Biden’s policies on Asia’s economies.

本稿では、バイデン氏当選の場合、その政策がアジア経済に及ぼす影響を考察する。

バイデン氏の経済政策がアジアにもたらすメリット

通商・外交政策はより協調的に:バイデン氏はオバマ大統領時代の太平洋重視政策を踏襲する可能性が高く、それは中国とのパワーバランスを均衡させる勢力となり、地域の安定強化に寄与しよう。これは、貿易と投資の拡大を促進することによって、民主主義体制をとる米国の同盟国(韓国、豪州、日本、インド)に恩恵をもたらす可能性がある。貿易摩擦解決のために、より多国間の通商政策アプローチをとるとみられることは、米国が中期的に環太平洋経済連携協定(TPP)に参加する可能性が高まることを意味し、アジアにとっては貿易、投資、経済成長の点で明るい材料となりうる。

米国の拡張的財政政策からの波及効果:バイデン氏の財政政策にかかる提案は正味で拡張的である。バイデン氏は、新型コロナウイルスのパンデミックからの復興支援として緊急財政刺激策と、運輸およびエネルギー・インフラへの1.5兆ドルの支出を計画している。これにより、米国の総需要が押し上げられ、アジアにも波及効果があろう。平均すると、米国はアジアの輸出の約12.6%を占める市場であるからだ。インフラ整備の推進により、短期的には国内調達の不足を補うため、米国の資本財輸入が増加するとみられ、アジアの主要な資本財輸出国が恩恵を受ける可能性が高い。

グリーン輸出への押し上げ:バイデン氏のグリーンエネルギー推進は、韓国(グリーン・ニューディール)やシンガポール(気候変動に重点)といった国々の取り組みと足並みをそろえるもので、この方向に向けた世界的な取り組みと融合する可能性がある。バイデン副大統領が、電気自動車 (EV) 、EVバッテリー、その他のグリーン技術などのクリーンエネルギーの投入に、4,000億ドルの連邦予算を投入する計画を掲げていることから、環境政策で先行している韓国、中国、日本は恩恵を受けやすいだろう。
石油価格の安定とドル安は追い風となるかもしれない:化石燃料からのシフトとバイデン氏によるイラン核合意への再加入計画は、石油価格がより安定化することを意味し、大口の純石油輸入国(タイ、インド、フィリピン)に恩恵をもたらす可能性がある。同時に、野村では、米国の双子の赤字が拡大すれば、中期的には米ドルが下落すると予想されるが、これは世界的な金融環境の緩和を意味する。

石油価格の安定とドル安は追い風となるかもしれない:化石燃料からのシフトとバイデン氏によるイラン核合意への再加入計画は、石油価格がより安定化することを意味し、大口の純石油輸入国(タイ、インド、フィリピン)に恩恵をもたらす可能性がある。同時に、野村では、米国の双子の赤字が拡大すれば、中期的には米ドルが下落すると予想されるが、これは世界的な金融環境の緩和を意味する。
移民に対する一段の制限緩和:高度技能者向け短期滞在ビザの発給拡大と国別の雇用ビザ制限の撤廃がなされれば、H1-Bビザ発給対象の大部分を占める国(インド、中国)に恩恵をもたらし、出身国への送金が増加しよう。

移民に対する一段の制限緩和:高度技能者向け短期滞在ビザの発給拡大と国別の雇用ビザ制限の撤廃がなされれば、H1-Bビザ発給対象の大部分を占める国(インド、中国)に恩恵をもたらし、出身国への送金が増加しよう。

中国は逆風を克服へ

バイデン前副大統領は、紛争解決のため、二国間関税よりも多国間のアプローチを支持している。バイデン政権においては人権問題や国家安全保障、知的財産権がより重視されるとみられる。ハイテク分野での対立は今後も残ると考えられ、バイデン氏は、米国のテクノロジー企業から技術を盗む中国企業に対しては、米国市場からの排除など制裁の発動も辞さないとしている。その場合、短期的には韓国などの企業が恩恵を受けよう。同時に重要な点として、バイデン前副大統領は米国の同盟国と協力して、サプライチェーンにおける中国への依存を減らすことを掲げており、中国依存からの脱却(分散化)という足元の傾向にますます拍車がかかろう。これまでのところ、アジアでは勝者と敗者が生じており、ベトナムなどが主に恩恵を受けている。

アジアにとってデメリットとなりうる点

米国の保護主義:バイデン氏が大統領に就任すれば、アジアにとって様々な名意味で課題ももたらそう。「バイ・アメリカン」政策は国産化率が少なくとも51%あることを条件としている。バイデン氏のインフラ計画は米国製資材に依存している。また、税制案は国外へのアウトソーシングのインセンティブを削ぐものである。このことは、アジアにとって、米国の支出による波及効果が過去に比べて小さくなり、アジアの開放経済国・地域にとっては脱グローバル化が中期的な課題となり続けることを示唆している。

米国と北アジアの競争:バイデン氏はEVバッテリー技術、軽量材料、5G(第5世代通信システム)、AIの分野で、米国の国際競争力を高めることを目指している。これが実を結ぶまでには時間がかかるだろうが、中期的にはこれらの分野で米国と北アジア経済が直接競合するようになる可能性がある 。

米国のインフレ上昇リスク:最低賃金の引き上げや労働者の交渉力を高める政策、サプライチェーンの混乱、連邦準備制度理事会(FRB)の緩和スタンスは、中期的なインフレを著しく高め、アジアの金融引き締めを引き起こす強力な「カクテル」となり得る。
短期的には、東南アジア諸国連合(ASEAN)よりも北アジアが恩恵を受けると考えられるが、中期的には北アジアは課題に直面する可能性が高い。

アジアレター・2020年10月より

著者

    ソナル・バルマ

    ソナル・バルマ

    インド・AEJチーフエコノミスト

    ティン・ルー

    ティン・ルー

    中国 チーフエコノミスト

    ユーベン・パラクエレス

    ユーベン・パラクエレス

    東南アジア エコノミスト

    Jeong Woo Park

    Jeong Woo Park

    Economist, Korea