独断で選ぶ日本経済「今年の〇〇」

日本経済版・「今年の漢字」「新語・流行語大賞」で2021年を締めくくる

今や年末の恒例行事となった、「今年の漢字」「新語・流行語大賞」の選定であるが、2021年最後となる「マクロの窓」においても、独断にて日本経済版・「今年の〇〇」を選定し、2021年を締めくくることにする。

1. 今年の漢字:「安」

供給制約などの影響長期化により世界的にインフレが高進する一方、国内でのインフレ率低迷が際立った点から、日本経済の「今年の漢字」は「安」とする。単に国際比較においてインフレ率の低迷が注目されただけでなく、物価の「絶対水準」の内外比較における日本の物価の「安さ」、賃金の「安さ」、円「安」の負の側面、などについて、日本経済新聞をはじめとする経済メディアが危機感や警鐘を含んだ議論を展開した。中長期的にみて、日本の物価、賃金、通貨の「安さ」は、家計の金融資産の円から外貨へのシフトや国内企業の競争環境の変化を通じて財政・公的債務を持続不可能たらしめる恐れ、という日本経済にとっての死活的な問題を惹起する可能性がある点で、今年を象徴する漢字に相応しいと評価した。

2. 流行語大賞:「共同富裕」

「共同富裕」は、中国の経済政策に関する標語ではあるが、以下の理由から敢えて日本経済の「今年の流行語」に選定する。
第一に、「共同富裕」が狙いとする格差是正、所得再分配強化が、岸田政権の掲げる「新しい資本主義」の下で日本国内でも同時に政策課題として重視されはじめている点である。第二に、中国の経済政策の基本戦略がこれまでの「先富」、すなわち格差拡大を容認した成長重視型の経済戦略、から「共同富裕」に転換することにより、中国経済の高成長がもはや日本経済(のみならず世界経済全体)にとっても成長の原動力としての役割を果たせなくなるリスクが生じていると考えられる点である。第三に、「共同富裕」実現の手段として散見される不動産市況過熱抑制に向けた取り組みには、1990年にかけての日本における「バブル潰し」政策との類似点が認められ、仮に中国が「共同富裕」の下での不動産バブル抑制策を起点に日本と同様の資産バブル崩壊の途を辿ることになる場合、日本を含む世界経済に与える影響の甚大さを考慮したからである。

3. 新語大賞:「グリーンフレーション」

「グリーンフレーション」は必ずしも2021年が初出となった用語ではないだろう。広義には「脱炭素化実現に必要となる追加的なコスト増大がもたらすインフレ」を指す用語と位置付けられる。2021年になり、従来とやや方向性の異なる、脱炭素化に向けてのインフレリスクがその語意として新たに加わった点を評価して、日本経済版の「今年の新語大賞」とした。新たに加わった語意とは、「脱炭素化で本来的には需要の縮小が予想される化石燃料の市況高騰の発生及びそれがもたらすインフレ」、である。
脱炭素化実現による構造的な需要縮小を見越して、生産者が新規採掘や既存の生産設備更新への投資を停止・縮小することで、逆に構造的な供給制約が長期的に継続するとの思惑がその市況高騰の一因として指摘される。本来的には需要が縮小していく財の価格が高騰する、というやや倒錯したメカニズムが意識されている意外性を評価して、新語大賞に選定する。

12月24日付レポート「日本経済ウィークリー - 回顧2021:感染症禍からの出口を模索した1年」より

著者

    美和 卓

    美和 卓

    野村證券 シニアエコノミスト