ESGリサーチ(政策): COP26首脳級会合の成果

インドの排出削減目標引き上げがサプライズ

気候変動に関するCOP26が英グラスゴーで開催

10月31日から、COP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)が英グラスゴーで開催されている。「ESGリサーチ(政策): COP26の論点整理」で述べた通り、今回のCOP26の最大の注目点は、通常は行われない首脳級会合だ。そこで、11月1日~2日にかけて行われた首脳級会合の結果を振り返る。

首脳級会合は概ね事前の想定通りの内容

現時点での主な成果は図表の通り。概ね「論点整理」(前掲)の想定通りである。ただ、幾つかサプライズ・含意のある内容もみられたため、それらについてコメントする。

図表: COP26首脳級会合の成果(一部)

1)グローバルメタン誓約への呼びかけ

米国・EU(欧州連合)が立ち上げたグローバルメタン誓約は、COP26首脳級会合の一つの目玉となった。10月11日時点での同誓約への参加国・地域は31だったが、EUによれば、COP26を経て参加国・地域が105となったようだ。世界全体のメタン排出の半分程度を占める国々・地域が誓約に参加したことになる。ただし、メタン排出量トップ3である中国、ロシア、インドはいずれも誓約に参加していない。今後、米国・EUによる対応要請が強化される可能性があるだろう。

2)各国・地域による気候変動対策のアピール

各国が自国の取組みをアピールする場では、温暖化ガス排出削減目標を引き上げる動きがみられた。サプライズとなったのは、インドによる2070年ネット排出ゼロ目標の表明である。これまで、インドの取り組み方針は「2030年時点でGDP1単位当たりの温暖化ガス排出量を33%~35%削減する(2005年比)」というものだった(なお、インドは2030年時点の目標も45%削減に引き上げている)。米国やEUはインドに対して取り組み強化を求めてきたが、インドは先進国からの資金援助なしに2030年以降の取り組み方針を定めることは出来ないとの姿勢だった。COP26首脳級会合で新たな資金援助拡大策がコミットされたわけではないことを踏まえると、インドは気候変動対策に対する姿勢を積極化したと評価できるだろう。

もっとも、(1)2070年目標は他の新興国と比べても遅い目標年であること、(2)パリ協定において21世紀後半のカーボン・ニュートラルにインドも合意していたことなどを踏まえると、取り組み姿勢の積極化はあくまで漸進的なものと評価すべきだろう。

3)先進国から新興国への資金援助拡大に関する議論

2009年の合意にて、先進国は「2020年までに1,000億ドル/年まで新興国への資金援助を拡大する」ことが決まっていた。しかし、気候変動対策に否定的な米トランプ政権の誕生やコロナ禍による混乱によって、この目標は未達となった可能性が高い(OECDが9月に公表した集計結果では、2019年時点で796億ドル/年の資金提供に止まった)。新興国の気候変動対策を促すためにも、2009年合意水準の達成が急務とされていた。

COP26を受けて、この2009年合意水準への到達が2022年にも実現する可能性が大きく高まった。かねてより米国が資金提供額を大きく増加させていたことに加え、COP26議長国である英国が2025年までに10億ポンド、日本も5年間で100億ドルの追加支援を表明した。こうした取り組みにより、2009年合意水準の達成が2022年にも可能になると米ケリー特使が述べている。当初の目標年から遅れたとはいえ、急速に新興国への資金提供が進みつつあることが、インドの2070年ネット排出ゼロ目標導入を後押しした可能性があろう。

ただし、先進国による資金提供の今後には注意が必要だ。というのも、新興国による要求がエスカレートし始めているからだ。COP26で新目標を掲げたインドは、同時に、先進国からの資金提供を現行水準の10倍である1兆ドル/年まで拡大すべきと述べた。また、南アフリカも7,000億ドル/年の資金提供が必要であることをCOP26前から表明していた。COP26後の主要議題として、先進国からの資金提供額の拡大は引き続き注目が集まりそうだ。4

4)グローバルなカーボン・プライシングの在り方に関する議論

あくまで首脳級会合時点での動向であるが、EUを始めとしてカーボン・プライシングの政策的な重要性が強調される場面が散見された。やや踏み込んだ言及としては、WTO(世界貿易機関)のオコンジョ=イウェアラ事務局長が、EU提案によるCBAM(炭 素国境調整メカニズム)を「姿を変えた保護主義」と指摘し、グローバルに統一されたシンプルな炭素税が望ましい旨を述べている。これはIMF(国際通貨基金)の主張とも整合しており、今後のEUの対応や米国の出方にも影響を与える可能性がある。なお、COP26では、12日の閉会までにパリ協定第6条に関する議論も行われる。TSVCM(自主的炭素市場拡大に関するタスクフォース)からも何らかの動きが出る可能性があり、そちらにも注目しておきたい。

森林・土地利用に関するグローバル合意も

このほか、COP26では、2030年までに森林破壊と土地劣化を停止する取り組みも発表された。現時点で128か国・地域が取り組みに合意しており、官民合わせて192億ドルの資金拠出も表明されている。森林保護に関するグローバルな取組みはこれまで幾度となく立ち上げられてきただけに、実効性のある仕組みとなるかが注目される。ただ、2014年の「森林に関するニューヨーク宣言」に参加しなかったブラジル、中国、ロシアが、今回の合意には参加している点は心強い。森林が果たす役割は、温暖化ガス吸収源や生物多様性のゆりかご、プラスチック等の代替材の供給源など幅広い。今回の合意が、どの程度実効力のあるものになるかに注目が必要である。

おわりに

COP26首脳級会合では、各国による気候変動対策の積極化が改めて確認された。なかでも印象深いのが、米国と欧州の協調関係である。グローバルメタン誓約の共同立ち上げはもちろん、一帯一路イニシアチブと競合するBBBW(ビルド・バック・ベター・ワールド)イニシアチブの議論加速など、気候変動対策における米国と欧州の協調関係が強く印象付けられた。CBAMという火種を抱えつつも、米国・欧州は協調的な関係を維持することを強く意識しているのだろう。首脳が現地入りしなかった中国・ロシアに対して、米バイデン大統領が批判的なメッセージを送ったこととは対照的である。

日本に関しては、岸田首相が現地入りしたうえで、追加的な資金援助を表明した。開催地英国のジョンソン首相は、日本による資金援助表明をスピーチ内で高く評価しており、日本としても一定の存在感を示せたと言えるだろう。当初はオンラインでのCOP26参加を岸田首相は模索していたようであるが、現地入りしたことの成果は相応にあったと評価できるのではなかろうか。

COP26首脳級会合は終了したが、12日までCOP26は続く。パリ協定第6条に係る議論など、専門性の高い実務的な話題が閉会式までに議論されることになる。炭素クレジット市場の今後に関わる議論などが出る可能性もあり、引き続き注目が必要だろう。

ESGリサーチ(政策)2021/11/4より

著者

    岡崎 康平

    岡崎 康平

    野村證券 シニアエコノミスト