野村ESGマンスリー(2022年12月)

COP27で結束確認も脱炭素推進力は強まらず:会議は踊る一方、企業が地道なESG対応を続ける必要性は変わらず

  • COP27の結果は、低かった期待値の想定線上
  • 企業の「ネットゼロ」への取り組み強化を求める国連の動き
  • 人権対応についても引き続き取り組み強化が求められる

COP27の結果は、低かった期待値の想定線上

会期を延長してCOP27の合意文書が取りまとめられた。地球温暖化とその悪影響に関する先進国と発展途上国の対立を緩和するための「『損失と被害』に対する基金」創設など、一定の成果はあったといえる。しかし、同基金に対して中国が拠出側に入るか否かを含め詳細は先送りされるなど、総じて脱炭素の推進力を高める結果とはならなかったといえよう。エネルギー供給不安や燃料価格高騰を受けて、短期的なエネルギー安全保障意識が強まる中では脱炭素の取り組みを加速させるような力強い合意は難しいとみられていたが、基本的にはそうした低い期待値に沿ったものであったといえる。

企業の「ネットゼロ」への取り組み強化を求める国連の動き

足元でのGHG排出増加を踏まえて、各国に対して2030年までの削減目標の再検討、強化が要請されることも想定線ではあった。今後先進国が追加的な削減計画を策定するかには注目しておきたい。その場合、企業の削減貢献の積み増しも期待されることになろう。そうした中、COP27期間中に国連の専門家グループが企業の「グリーンウォッシュ」を排除するための提言を発表し、国連とISO(国際標準化機構)が「ネットゼロ」計画策定の指針を公表している。いずれも、カーボンクレジットを活用した排出量相殺を考慮した「カーボンニュートラル」というよりも、排出絶対量の削減をより重視した形になっている。ISO指針では省エネ商品などによる削減貢献量がGHG削減に含まれない形となっている。今後、各企業の排出量削減計画とその実効性がより注目される可能性がある。

人権対応についても引き続き取り組み強化が求められる

GHG排出削減だけでなく、企業には人権対応の強化も引き続き求められている。11月にWBA(World Benchmark Alliance)が公表した、3業種(農産品・食料品、自動車、情報通信技術)におけるグローバル企業の人権対応スコアによると、日本企業のスコアは他のグローバル企業と比較して依然として低水準である。欧米企業の人権対応が合格点ということではないが、日本企業の対応強化が要請されているのは間違いない。経産省などを中心に企業の人権デューディリジェンスを含む人権対応の後押しが始まっている中、今後の改善努力が注目される。

『野村ESGマンスリー(2022年12月)』 2022/12/8 より

著者

    若生 寿一

    若生 寿一

    野村證券 ESGチーム・ヘッド

    元村 正樹

    元村 正樹

    野村證券 シニア・エクイティ・ストラテジスト

    岡崎 康平

    岡崎 康平

    野村證券 シニアエコノミスト