野村ESGマンスリー(2023年8月)

地球は温暖化から沸騰の時代となるのか

  • 7月の世界の平均気温は観測史上最高と予測、異常気象への警戒高まる
  • 中国の独自路線堅持とCOP28議長国UAEの取り組み強化が対照的
  • 引き続き米国での反ESGの動きは政治とのリンクに注意

7月の世界の平均気温は観測史上最高と予測、異常気象への警戒高まる

2023年7月の世界の平均気温が観測史上最高になると世界気象機関(WMO)などの研究機関が発表、グテレス国連事務総長は「地球温暖化の時代は終わり、地球が沸騰する時代がきた」と警戒を示した。またローマ教皇も異常気象への対策強化を訴えるとともに被害を受けた人々との連帯を表明した。世界中の様々な地域で、干ばつにより一部農産物の収量や価格に影響が出るとともに河川を利用した物流や水力発電、そして原子力発電にも影響が及んでいる。気候変動に対する取り組みとしては、「緩和と適応」が求められてきたが、「緩和」の強化に一層注目が集まりやすくなっていると言えよう。

中国の独自路線堅持とCOP28議長国UAEの取り組み強化が対照的

こうした中で9月のG20 首脳会議に向けて、エネルギーや環境に関するG20閣僚会議が分野ごとに開催された。しかし、各国固有の事情を反映した取り組みを尊重する、という形でいずれの閣僚会議でも共同声明には至らなかった。世界最大のGHG排出国である中国は、習近平国家主席が中国の排出削減は他国追随ではなく自国で決定すると表明、今の段階ではこれまでの2030年までにピークアウト、60年CNの方針堅持を示した。ただし、この方針もCOP26直前で表明したものであったことを思い起こすと、政治的にタイミングを計っている可能性はある。

その一方、足元で動きが目立つのがCOP28議長国のUAEである。議長を務めるジャーベル産業相は、アブダビ国営石油会社(ADNOC)のCEOであることを批判されているが、ADNOCはCN目標年を2045年に5年前倒し、米石油会社とDACプラント建設に合意した。またUAEとしても2050年に水素生産量1500万トンを目指すと表明し、エネルギー戦略を転換している(日本の2050年の国内需要目標は2000万トン)。排出絶対量の削減ではないが、「適応」をにらみつつ議長国としての対応を強化していると評価できる。

引き続き米国での反ESGの動きは政治とのリンクに注意

米国での政治的な反ESGの動きは、共和党の勢力が強い州から、連邦段階に拡がる動きも見せている。米下院の金融サービス委員会に、企業に対するESG関連開示要求を抑えて金融市場でのESGの取り組みを後退させるような法案が提出された。法案の成否は不透明だが、来年の米大統領選に向けて、引き続きESGへの賛否が政治的な立場と紐づけられやすい点には注意を続ける必要があろう。

野村ESGマンスリー(2023年8月) 2023/8/14 より

著者

    若生 寿一

    若生 寿一

    野村證券 ESGチーム・ヘッド

    元村 正樹

    元村 正樹

    野村證券 シニア・エクイティ・ストラテジスト

    岡崎 康平

    岡崎 康平

    野村證券 シニアエコノミスト

    有井 菜月

    有井 菜月

    野村證券 アナリスト