野村ESGマンスリー

百花繚乱のカーボンニュートラル対応

  • 日本政府の「2050年カーボンニュートラル宣言」と「グリーン成長戦略」、そして米国の「パリ協定」復帰など、各国政府が環境政策を強め、それをテコに経済成長を後押ししようとする動きが広がっています。
  • 各国企業の様々なカーボンニュートラル対応の報道も相次ぎ、「百花繚乱」といった状況ですが、それぞれの国や企業がそうした宣言を実現できるのかを見極めていく必要があります。
  • 特に企業にとっては、環境対応を進める中で新たなビジネスチャンスを見出し、業績改善と両立させられれば、新たな成長ストーリーが描けることにもなります。今後はそうした観点からも個々の企業の対応を注目していく必要があると考えています。
  1. 2020年、様々な形でESG(環境・社会・企業統治)への関心が急速に高まりました。その背景として、異常気象や地球温暖化など環境問題への懸念、個人間・国家間の格差拡大への懸念、そして新型コロナウイルス感染拡大による企業活動や人々の生活の持続可能性への懸念、といった様々な懸念の強まりが挙げられます。共通しているのは、現状の資本主義に依拠する経済や社会が持続可能なのかという意識が広がっていることだと考えられます。そうした状況を踏まえ、政府や企業の対応が目立っています。日本政府は2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を宣言した後、12月には「グリーン成長戦略」を発表しました。また、米国でもバイデン大統領就任後、地球温暖化対策の「パリ協定」に復帰、関連した政策策定に動くなど、先行する欧州に続く形で各国政府が環境政策を強め、それをテコに経済成長を後押ししようとする動きが世界的に広がっています。
  2. また、企業によるカーボンニュートラル目標の設定や、合わせて温室効果ガス排出の多い事業の売却や再生可能エネルギー事業への進出などの発表も相次いでいます。カーボンニュートラル対応が百花繚乱といった印象でもあります。ただし、そうした政策や企業の対応が目標通りに達成できるかどうかは保証の限りではありません。技術革新の進展度合いであるとか、必要な資源が確保できるかといった要素も含めて、それぞれの国や企業がカーボンニュートラル宣言を実現できるのかを見極めていく必要があると言えます。
  3. さらに企業にとって、環境対応が業績にどういった影響を及ぼすかにも目を向ける必要があります。環境対応は少なくとも短期的にはコスト増ですから、利益を減少させる要因です。企業としては、環境対応する中で新たなビジネスチャンスを見つけるなどして、企業業績の改善と環境対応を両立させることができれば、新しい成長ストーリーが描けることになります。具体的には、それぞれの企業の温室効果ガス排出量全体と、一単位の売り上げや利益を上げるための排出量(これを原単位と言います)、そして利益水準を比較して、排出量と原単位が減少する、つまり温室効果ガスの影響が小さくなる中で利益水準が上がっていく、という形が定着すれば、その企業は環境対応と業績改善の好循環を作っている、言い換えれば持続可能な環境対応ができている、と評価することもできるでしょう。今後、そうした企業の動きについても注目していく必要があると考えています。

野村ESGマンスリー 2021/3/16 より

著者

    若生 寿一

    若生 寿一

    野村證券 ESGチーム・ヘッド

    元村 正樹

    元村 正樹

    野村證券 シニア・エクイティ・ストラテジスト

    岡崎 康平

    岡崎 康平

    野村證券 シニアエコノミスト