野村ESGマンスリー(2023年10月)

カーボンオフセットからカーボンインセットへ?

  • COP28に向けて、「削減」より「機会」が強まるか
  • カーボンインセットは企業のバリューチェーン管理向上につながりうるが・・・
  • プライム市場上場企業の減少は、ガバナンス改革の一つの成果

COP28に向けて、「削減」より「機会」が強まるか

英国が内燃機関車の新車販売禁止期限を先送りするなど、景気配慮を優先して脱炭素政策を修正する動きが見られている。その一方、11月のCOP28に向けて様々な動きも報じられており、議長国UAEのジャベール議長は、日経新聞(10月5日掲載)に対してエネルギー安全保障、脱炭素、経済成長の同時実現を目指すと語った。先月のアフリカ気候サミットでも再エネ拡大が打ち出され、UAEはDACによるCO2回収目標の倍増を打ち出している。排出削減の加速よりも脱炭素関連の投資機会を求める動きの強まりが見え隠れしている。持ち回りでは東欧とされる来年のCOP29の議長国が決まらず2年連続でUAEとの報道もあるが、そうなった場合さらに投資機会を求める動きになりやすいことには留意したい。COP28ではその他、「損失と補償」基金の具体化議論も注目されよう。

カーボンインセットは企業のバリューチェーン管理向上につながりうるが・・・

森林などのCO2吸収量をボランタリークレジットとして取引し、買い手のCO2排出を相殺するカーボンオフセットについて、クレジットの質が保証されないといった不透明感から利用を手控える動きも広がっている。これに対して、10月2日のFT紙は「カーボンインセット」という考え方を指摘している。自社の植林や自然環境保全といった活動を通じて自社のバリューチェーン上のCO2排出を削減するというものである。

9月に最終提言が発表されたTNFDでは、TCFD基準に加えてバリューチェーン上の人権を含む自然資本への影響開示が求められていることと合わせて考えると、「インセット」の考え方が広がることは自社のバリューチェーン全体の環境への関わりを改善する動きにつながるとも期待できる。とはいえ、吸収量の質や金銭的価値の算定の透明性をどう認証するか、という問題も残るであろう。また、業種によっては「インセット」で吸収しきれないCO2を相殺するためのカーボンクレジットへのニーズは消えないとみられる。そうした点からは、売買するカーボンの質と価格に関して透明性のあるカーボンクレジット市場の機能を充実させていく必要性は変わらないとみたい。

プライム市場上場企業の減少は、ガバナンス改革の一つの成果

東証プライム市場から無審査でスタンダード市場に市場区分を変更できる期間(23年4月~9月末)に申請した企業が177社になった。プライム市場全体の1割弱だが、プライム市場に上場し続ける場合に求められる高度な情報開示水準やそれに伴うコストなどを勘案した場合、その必要性を鑑みて身の丈に合った市場を選んだ結果でもあると考えられる。そうした判断自体、企業のガバナンス改革の成果であると前向きに評価し、残る企業には情報開示拡充や企業価値の向上に取り組むことを期待したい。

野村ESGマンスリー(2023年10月) 2023/10/12 より

著者

    若生 寿一

    若生 寿一

    野村證券 ESGチーム・ヘッド

    元村 正樹

    元村 正樹

    野村證券 シニア・エクイティ・ストラテジスト

    岡崎 康平

    岡崎 康平

    野村證券 シニアエコノミスト